2.悪魔

 

 

悪魔

 



 

 

 


「女の子のまね?」
圭斗は首を傾げた。
「そうなんだ。あいつ、大崎からの依頼でさ。引き受けてくれるんなら、これがおまえの初仕事になるんだけどなあ」
「………っ!!」
圭斗は眼をまん丸にし、輝かせた。
「やる! やるやるやるっ、ぜったいにやるぅ‼」
「やってくれるか!」
「うんっ、オレがんばる」
「あ、圭斗。「オレ」って言うのはやめとけ。自分のことは「圭斗」って名前で呼ぶんだ。いいか」
「うんわかった。“もえ”でしょ」
「え? ああ、うん、そう……(萌え?)」
誰だ、そんな言葉を教えたのは。
大崎を呼ぶ。
「いいか大崎。圭斗に妙なことしてみろ。……お」
「わかってる!! わかってるから言わないでくれ」
大崎は心持ち青ざめ、葵に頷いた。

「このコがおれの彼女、圭斗ちゃん。圭斗ちゃん、こいつが引田」
大崎はとろけそうな顔で紹介した。引田が小刻みに震えた。
(ふふふ、悔しかろう、引田。昔からおれたち同じコ好きになってたもんな)
(くそっ、大崎。どこでこんなコ見つけてきたんだ? おれ坂河に金まで払ったのに!)
(ハンバーグ……スパゲティー……オムライス……カレーライス)
(あたしは紹介されないのかしら。つーかギャラ安すぎだわ、坂河のばかヤロー)
引田の隣に座っていた少女はメニューを見ながら、声に出さず悪態をつく。
「圭斗ちゃん、遠慮しないで好きなものなんでも頼んでいいよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
頷いて、圭斗は少女を見た。春日(かすが)しのぶはにっこりと微笑む。
「あ、そうそう、このヒト、おれの彼女。ええと……」
引田はしのぶを紹介しようとしたが、名前が出てこない。今日会ったばかりなので仕方ないといえば仕方ないのだが。
「春日しのぶです。坂河葵にほぼノーギャラで頼まれてきましたv」
「え、ちょっとっ!?」
うろたえる引田。しかし、
「あなたもそうでしょ、圭斗チャン?」
「はい」
素直に答える圭斗。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
大崎も悲鳴を上げる。そして、
「………?」
大崎と引田は顔を見合わせる。
『何だ、おまえも?』
互いを指差し、同時に言っていた。
「――まったく、やってくれるよな、坂河め」
「ほんとよね、馬鹿にしてるわ」
しのぶが大崎に同意する。
「でもあたしもやっちゃったわねー。いくらギャラが安いからって、バラしちゃねー」
「あちっ」
運ばれてきたハンバーグをほおばった圭斗が短く声を上げた。
「大丈夫、圭斗ちゃん」
「慌てなくてもいいんだよ。ゆっくりで」
大崎と引田は競うように圭斗に言う。圭斗が男だとは夢にも思っていない。あくまでも圭斗は、彼らの好みにぴったりの女の子、なのだ。うまくすれば自分の彼女に、ともくろんでいる。
しかし、彼らにはある思いがあった。――「坂河は怖い」。下手に手は出せない。
「なんたって、“最強の悪魔”だもんなあ」
「あくま?」
圭斗が引田を見上げた。
「あれ、知らないの、圭斗ちゃん」
「えーと、表社会と裏社会ってあるだろ。それをこう表すとすると」
大崎がファミレスのナプキンにペンで図を描き始めた。
「ハリィハックとか、そういうちょっと危ないことでも引き受けます的な何でも屋とかがいる、その辺の世界には、ドラゴンと呼ばれるヒトと悪魔って呼ばれるヒトがいるらしいんだ」
「正確には、強大な“力”を持つ四竜――青竜、紅竜、白竜、黒竜、それとけんかのつよーい何人かの悪魔(カラーデビル)、よ。まあこれは、将棋とか囲碁とかのタイトルみたいなもんで、別に仲間同士ってわけでもないし、むしろ敵対しまくってるわね。黒竜だけは、ブラックドラゴンというグループ(てしたども)を持っている」
「……詳しいね、しのぶさん」
引田の言葉に、しのぶは「まーね」と応じる。
「葵が最強の悪魔なの?」
と、圭斗。
「そう、ブルーデビル」
「だから圭斗ちゃん、坂河には気をつけるんだよ。怒らせると何されるかわからないから」
引田は言ったものの、「でも坂河って、あんまそんな感じしないんだよなあ。けんか強いとかブルーデビルだとか、あいつを見てる限り、ぜんっぜん信じらんねーもん」
と、笑い出した。

五月三十日 二十二時三十七分。
「おぉおぉさぁきぃ……」
マンション前で待ち構えていた葵、圭斗を送ってきた大崎を捕まえる。
「こんな時間まで圭斗を連れまわして、いったいどういうつもりだぁ!」
「うげっ……首、しまっ……」
「ただいまぁ、葵ぃっ」
圭斗が葵に飛びつき、結果大崎を救う。
「ああ、圭斗ちゃん……」
名残惜しげに大崎が手を伸ばすが、圭斗は立ったまま葵の腕の中ですでに睡眠モードに入ってしまっている。
(よしよし、なにもしてないな)
大崎の様子を見て、葵は頷いた。圭斗にナニかしたのなら、女の子扱いしているはずがない。
「じゃ、大崎。もうバス終わってるけどがんばって帰れよ。おやすみ〜」
圭斗を抱き上げて言った葵に大崎は、
「あ、坂河」
「ん? なんだよ」
葵が振り返る。
「圭斗ちゃんも、“仕事”してんだよな」
「いや、今日のが初仕事。……なにかあったのか」
葵の眼が厳しくなり、大崎は一瞬ひるんだが、
「ああ、実は……」
神妙な顔で言った。

五月三十一日 十七時。
『下校の時刻になりました。残っている人は、とっとと帰っちゃってくださいな』
放送委員によるアナウンスが流れる。
「帰るか」
秋人が言った。
「オレ、顔洗ってくる」
泥だらけになってしまっていた圭斗が水道の方に駆けていく。
「また転ぶなよー」
サッカーボールを片付けながら声をかけた陵也に、圭斗は振り返って大丈夫だといわんばかりに手を振ったが、その途端、何もない地面に蹴躓く。
「言ってるそばからあいつは……」
「陵也、どう思う」
秋人が言った。
「なにが?」
「圭斗が誰かに攫(さら)われかけたって話」
「ああ――」
「葵が圭斗拾って来た日に来てたファックスとなんか関係あんのかな」
「でもあれは大丈夫だって、椎名さんが――」
「その『大丈夫』のわけを聞かなかった。オレたちに対する気休めかもしれない」
「気休め言ってどうすんだよ。椎名さんがきっちり相手と話つけたから、『大丈夫』なんだろ」
「オレだってそう思いたいよ。惚れた女の言うことだしさ」
秋人は首を振る。「そういえば、今圭斗から目離してるけど、いいのか?」
「あ?」
陵也は少し考えた。――顔洗いに行っただけだ、大丈夫だろ。
一方。
「――圭斗」
呼ばれて、圭斗は振り返った。そこに立っていたのは、葵より少し年上に見える男と、同じクラスの工藤匠と立花章太。
「久しぶりだな。ちょっと、話さないか」
男が言った。
「え……?」
彼は圭斗が返事をする間もなく、腕を摑んだ。

 

 

NEXT

BACK

NOVEL TOP

TOP

 

 



 

8/20
アップすんのがしんどい。