競技部部長・坂河葵

 

 

3.彼と願い

 



 

 

 




空を飛ぶんだ。
大きくなったこのコの背に乗って。

願いを叶える――? このコが?

もしそれが、本当なら。
空なんて飛べなくていい。

願いは。
オレの本当の、願いは――



『葵! どうしよう圭斗が!』
携帯電話から、稜也の泣きそうな声が飛び出した。その一言の後は、もうなにを言っているのか聞き取れない。
「落ち着け、何があった?」
稜也が話すまで、十秒ほど待つ。
『圭斗が、牙の奴らにさらわれたって』
「牙!?」
『工藤と立花が見てたんだ。牙の刺青してたらしいんだ。卵がどうのって言ってたって』
「卵――まさか・・・・・・!?」
『葵?』
「とりあえずハリィハックに戻れ。俺もすぐ行く!」
電話を切ると、大崎が不思議そうに葵を見ていた。
「どうかしたのか? ――おい、部活は?」
「サボる、引田(ふくぶちょー)
によろしく!」
葵が飛び出して行った後、大崎は後輩の視線にさらされて気まずそうにつぶやいた。
「部室でサボるとか大声で言うなよ、部長が・・・・・・」



どうやら圭斗の持っていた卵は、願いの鳥のものだったようだ。
鳥を探していた牙がそれを見つけ、圭斗ごと持ち去った。が、圭斗はどうやらうまく逃げ出したらしいことは、通信機(クロス)
からの電波で知れた。それによって彼の居場所も把握できた。
しかし、いくら呼びかけても、圭斗からの返事はなかった。



木田は欲していた。
願いの鳥を。
鳥によって得られる、自由を。

突然の事故で両親と、一つ違いの弟を失い、父の借金で家も失くした。
途方に暮れていたとき、疎遠になっていた友人に誘われて。望んで牙になど入ったわけではなかった。
そして、すぐに後悔した。
総統の命令は絶対。逆らえばただでは済まない。
他人を傷つける日々。誰かと口を利くこともない。
限界だった。



願いは、たった一つ。
叶えられるのなら、他の何を失っても構わないはずなのに。

圭斗は震えながら、卵を抱きしめた。灰が手の甲を舐めてくる。
人気のないビルの非常階段にうずくまっていた。これからどうすればいいのかわからなかった。
彼の願いは、ハリィハックへの、彼を大切な家族だといってくれた人たちへの裏切りなのだ。この願いを抱いている以上、ハリィハックには帰ることはできない。

「・・・・・・・・・・・・り、たい・・・・・・」

願い。
他の何を犠牲にしてでもと想う、彼の願い。

「うちに、帰りたい、よぉ・・・・・・・・・」

灰が圭斗の膝に体を擦り付ける。
圭斗は願いを抱いて、途方に暮れる。
卵が孵るまで。




 

 

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