あいたいひと 後編

あいたいひと





「那未ちゃん。なに、話って?」
放課後、那未に呼び出された誠太と透夜は、近所のファーストフード店にやってきた。
「あんたたち、水景なら、坂河葵って先輩知ってるわね?」
「え、うん、まあ。有名人だし。ね、透夜」
「理事長の息子だろ。たしかおれらより三つ上の」
あれ、でも。誠太が首を傾げる。
「たしか坂河先輩って今、入院中なんだっけ。弟の楓くんがいつもお見舞いに行ってるって、彩太が言ってた」
「で、那未、坂河先輩がどうしたんだよ。知り合いか?」
「まあね。――あんたたち、葵が誰かと同居してたって噂知ってる?」
「ああ、なんかそんな噂あったよね」
誠太が頷く。それがどうかしたのか、と透夜。
「それ、圭斗なのよ。それであんたたちに頼みたいことがあんの」
「ん、いいよ・・・・・・・・・・・・って、えええ!?」
「ちょっっと待て、圭斗がなんだって?」
那未はハァとため息をついた。
「圭斗が小六のときに家出したのは知ってるでしょ? そのときに、葵と知り合ったのよ」
「え、ちょっ、その前に、那未ちゃんは坂河先輩とどういう・・・?」
「わたしは――、・・・・・・。葵はハリィハックっていう何でも屋の一人で、わたしは六年前、そこに依頼したの。お兄ちゃんを探してくれって」
「え、それって小三のときだよね。子どもでもそんな、依頼ってできるの?」
「つーか坂河先輩だって小六だろ、そん時・・・。すっげ嘘くせえ」
「嘘臭かろうとなんだろうとそうなのよ。わたしもそれがきっかけでハリィハックに入った。自分でお兄ちゃんを見つけたかったのもあるけど、葵カッコいいんだもんv」
「・・・・・・・・・」
「・・・透兄の嫁になるんじゃなかったのかよ」
「うるさいわねー、透お兄ちゃんなんかよりずっといい男なんだから、葵は。で、圭斗は葵に拾われて、ハリィハックの一員になったわけよ」
「犬猫じゃあるまいし・・・」
「拾われんなよ、あの馬鹿」
今は違うんだけどね、と那未がいった。
「それで、頼みたいのは、そのことなの」
「そのことって? どのこと、」
「葵が入院中って話よ。圭斗、葵は死んだと思ってるんだって。その誤解を解いて欲しいの。葵は生きてるんだって、あの子に伝えて」
「・・・・・・なあ、どうしたらそんな誤解ができるんだ?」
透夜がポテトを咥えて呆れたようにいった。そうだよねー、と誠太が応じる。
「きっと圭斗、おれたちが思ってるより馬鹿なんだよ」
「ああ・・・結構馬鹿だとは思ってたけど、それ以上なんだな」
「じゃ、そういうことだから。頼んだわよ」
ひらひらと手を振って、那未は店を出て行った。
「・・・・・・誠太、わかったか?」
「わかったようなわかんないような・・・とにかく、坂河先輩が生きてるって圭斗に言えばいいんでしょ?」
「だな」
透夜は携帯電話を取り出して、圭斗の番号を表示させた。


「そういうわけで、圭斗。坂河先輩は生きてるんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「圭斗?」
「聞いてんのか?」
「・・・・・・どこ」
圭斗は俯いていた顔を上げて、悲鳴のような声を出した。
「葵、どこ・・・・・・!?」
「う、うちの病院だけど・・・・・・ちょっと待って!」
誠太が答えると席を立とうとした圭斗を、透夜が乱暴に押さえつけた。
「行く前に、ちゃんと説明しろよ。なにがどうなってんだよ、おまえも那未も!」
「・・・・・・那未、さん・・・?」
「そ、那未ちゃんに頼まれたんだ。覚えてるだろ、海兄の妹の」
「・・・・・・!」
圭斗は目を瞠って、誠太を見た。「那未さん・・・・・・海お兄ちゃんの、妹・・・」
数日前の那未と同じような反応をして、圭斗はうなだれた。
「俺・・・・・・俺のせいで、葵は、死んだんだって・・・・・・あのとき俺、"力"――」
「・・・・・・わかるように言えよ。言うなら」
「――葵に会いたい・・・・・・でも、」
「ああもういい!」
じれったそうに、透夜は圭斗を引っ張り上げた。「行くぞほら! なんだかよくわかんねえけど、知り合いなら見舞いぐらい行ったって問題ねえだろ」
「あ、そっか。那未ちゃん、圭斗を見舞いに来させろって言いたかったんだ」
誠太はなるほど、と手を打ち、呆然と透夜に引っ張られていく圭斗の荷物を拾って二人を追った。






「ほら、圭斗。ここ」
平内総合病院。誠太は坂河葵の病室の前で立ち止まった。
「・・・・・・」
動こうとしない圭斗の背を、透夜が叩く。
「行けよ、さっさと。待っててやるから」
なおも躊躇う圭斗の目の前で、ドアが勢いよく開いた。
「誰だ――・・・っ、圭斗!?」
透夜よりも五センチほど背の高い、整った顔をした茶髪の少年だった。稜也、と圭斗が呟く。
少年は何も言わずに圭斗の胸倉を掴むと、有無を言わせず病室の中に引きずり込んだ。
「あっ・・・・・・」
驚いた誠太が慌てて手を伸ばしたが、開いたときと同様、ドアは勢い良く閉められてしまった。
「な、なに、今の・・・・・・」
「知らね・・・・・・」






病室の中は、沈黙が支配していた。そこには、ベッドの中で眠る坂河葵のほかに、圭斗を部屋へ引きずり込んだ稜也という少年と金髪の少年がいた。
圭斗の視線は床に縫い付けられたまま動かない。
ポン、と金髪の少年が圭斗の後頭部を叩いた。
「久しぶりだな、圭斗。葵に会いに来たのか」
「・・・・・・・・・」
「おまえが気にすることないんだからな。たまたまおまえだっただけで、あのときあの場にいたのが俺たちだったとしても、何もできなかったんだから」
「でも、」
「あのとき"力"を使えてれば、か? おまえがとっさに"力"使えないなんて、そんなこととっくに知ってる。それに、普通に"力"を使えてた葵だって何もできなかったんだ、おまえを責める気なんかねーよ」
「それよりおまえ、また痩せただろ」
稜也が怒ったようにいった。「軽かったぞ、さっき、ものすごく」
圭斗はただ黙って、頷いていた。




生きていた。
ベッドの中で、彼は確かに生きている。
もう二度と会えないのだと思っていた。
名前を呼んでもらうことも、頭を撫でてもらうことも、笑いかけられることも。
もう二度とないのだと、思っていたから。
涙が止まらなかった。
彼はただ、眠っているだけなのだけれど。
いつ、目を醒ますのかなんて見当もつかないのだけれど。
それでも、自分の世界を引っくり返してくれた彼が、


生きていてくれた――








「あーあ、あれじゃ駄目かぁ」
圭斗が帰ると、布槌稜也がグッと背骨を伸ばしながらいった。
「那未に約束させられたからな、圭斗を連れ戻さないって」
小林秋人が笑う。「あの様子じゃ、自分から戻って来そうにはないな」
「しゃーねえ、俺らだけでなんとかすっか」
ハリィハックは今、葵と圭斗を欠いて人手不足状態にある。坂河葵と山波圭斗、それに克魅という男が"力"を持っていたのだが、頼みの克魅も事件からほとんど顔を出さなくなった。残ったのは社長の椎名と長谷川那未、布槌稜也と小林秋人という、"力"を持たない人間だけ。正直言って、きつい。
それでも。
自分たちだけでなんとかやっていこうと、二人の少年は考える。それまで、"力"を持つ三人に頼りきっていたから。守られていたから。
「やっぱ、惚れた女は自分で守んなきゃなあ」
なあ、葵。秋人が呟く。
自分たちはまだ子どもだけど。でももう子どもでいたくないから。


大切な場所を、大切な人を守りたいと思うから。








あんなにボロボロに泣くのなら、聞かなくてもいい。
誠太はベッドに横になってから、考えた。圭斗のことだ。
坂河先輩の病室から出てきた圭斗は、泣き腫らした目で、自分たちに笑いかけた。
何があったのか、知りたくないわけじゃないけど。まあ、圭斗本人からじゃなきゃ聞けないってわけじゃないし。
――(「俺・・・・・・俺のせいで、葵は、死んだんだって・・・・・・あのとき俺、"力"――」)
やっぱ圭斗だって負担だよね。だっておれたち、普通の人間なんだし。"力"なんて必要ないよ。そんなもののことで悩みたくなんかない。
(でも、悩む・・・・・・)
悩むんだ、圭斗は。自分や透夜はあまり気にしてはいないけど、圭斗は気にしてる。
坂河先輩と圭斗に起こったこと。きっと、"力"が関係している。
だから、もしかすると。
きっといつか、自分たちにも関係してくるんじゃないかって、そんな気がする。
(やだなぁ・・・)
なにか得体の知れないものが、自分たちに近づいてきている――?


<END>

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05.2.28
すっきりしなくてすいません。
ハリィハック編第一話はコチラ