
たとえ・・・
あ〜・・・・・・。 やっちゃったよ。 やっぱり、もうちょっと周りに気をつけておくべきだったんだよ。三人も襲われてるんだし。 事情聴取とかされるのかな。クリームパンに夢中で不審人物に気付きませんでした、なんて、恥ずかしくて言えないよ・・・・・・。 それにしても、誰だったかなあ、あれ。知ってる人だったと思うんだけど。・・・・・・でも俺、いつもと違う表情とかされると誰だかわかんなくなるんだよなぁ。 あああ、襲われた本人がこんなんじゃ、透さんだって困るだろ。しっかりしろよ、俺の脳細胞! まったく、暗い気分のときばっかり働くんだから。もっと元気に! ネガ・・・・・・? じゃない、ポジティブに! はあ・・・・・・考えるのめんどくさいな。結局これって、夢の中なんだろ? 考えるのに向いてるとはとても思えないよ。 なんかまったりしてきた。眠いよ。いや、夢の中だから寝てるんだけど。プールから帰ってきて昼寝するときみたいな感じだ・・・。エアコンの聞いてる部屋で、畳にゴローンて。気持ちいいなあ・・・・・・。 『風邪ひくぞ、圭斗』 あ、透さんの声だ。でも目ぇ開けらんないや。 『ちゃんとベッドで寝ろよ。腹出てるぞー』 葵も。那未さん。誠太。透夜。彩太、潤。 『じゃあ、みんなでお昼寝しよっか。ほら那未。誠太と透夜も。透、毛布持ってきて!』 海お兄ちゃん。みんないる。よかった、みんないるんだ・・・・・・。 「夢を見るんだ」 六年前、海はそういった。「すごくリアルでさ。十七にもなって夢に怯えるなんて、馬鹿らしいよな」 その頃海が毎晩のように見ていたのは、人を殺す夢。自分の意思と関係なく動く体が、次々と人を傷つけていく。 「どんなに頑張っても、止められないんだ。そうしているうちに俺、那未や、透のこと・・・・・・」 「泣くことないだろ。たかが夢の話で」 「だって・・・・・・」 じゃあさ、透。海は言った。不安そうな、真剣な目でおれを見つめて。 「もし、夢の通りになったら、」 そんなことあるわけないだろ、と言いたかったのに、言えなかった。 「そのときは、俺が大事な人を傷つける前に、止めてくれる・・・・・・?」 おれはただ頷いて、それを約束することしかできなかった。 海が姿を消したのは、その二日後だった。 誠太が、何かに怯え始めた。「やな感じがする」と。誠太は、他人の"力"を感じ取る。だからきっと、誰かの"力"を感じて、怯えているのだろう。 その頃、このあたりではある事件が起きていた。今回と同じような通り魔事件。二人が重傷、三人が死亡。事件が起きる直前に、二人が行方不明になっている。海もその一人だった。 違う。何度も自分に言い聞かせた。海がやったんじゃない。あいつがそんなこと、できるはずがない。 だけど。海が本気で怯えていた、あの夢が。海はこうなることを予感していたんじゃないのかと。 『夢の通りになったら、大事な人を傷つける前に、止めてくれる・・・・・・?』 なあ、海。おまえがあんな話をするから、おれだって不安になったんだ。 ――約束だ、海。必ず、止めてやるから。 六年前のおれは、夜毎に外を歩いた。ちっぽけで頼りない、文房具としか思っていなかったカッターナイフを、ポケットに忍ばせて。 05.4.6 |