たとえ・・・4

 

  たとえ・・・

 






圭斗の"力"がなくなった?
透夜から話を聞いて驚いたのは、那未と誠太だった。
まずいわ、と那未が言った。"力"を持つものがそれを失えば命に関わることを、彼女も知っていた。
「・・・・・・圭斗は、前にも"力"をなくしたことがあるの。でも、そのときは克魅が――ハリィハックで、"力"を持ってるやつなんだけど――なんとかしたんだけど、ちょっと性格がアレなやつなの。あのときは葵がいたから大したことにはならなかったんだけど・・・・・・」
「アレな性格って?」
誠太が訊く。
「・・・・・・たとえば、"力"で圭斗を治す薬を作るとするじゃない。で、できた薬は確かに圭斗を治しはするけど、プラスアルファがあるわけよ」
「プラスアルファって、たとえば?」
「むしろあいつにとってはそっちがメインなのかもしれないけど、性別を転換したり動物になったり性格変動が起きたり・・・・・・」
「おもしれえ!」
面白くない! 那未が噛み付かんばかりに透夜に反論する。
「そりゃね、ちゃんと元に戻せるなら『面白い』で済むわよ。でも克魅のやることには、元に戻る保障はどこにもないのよ! 今までは葵があいつの良心やってたけど、今は連絡もロクに取れないんだから。とにかく頼りにならないっていうか、頼りたくないやつなのよ!」
「でも頼んなきゃどうにもならないだろ?」
透夜が言うと、那未は低く、ぼそりと呟いた。
「ないこともないわ・・・・・・」
"力"の回復には、"力"が必要だ。その者に一滴でも"力"が残っていれば、それを種として回復していく。
「今の圭斗には一滴の"力"も残っていない。だったら、輸血ならぬ輸"力"、もしくは臓器移植ならぬ"力"移植あるのみ! ・・・・・・でもそれには、圭斗により近い"力"の持ち主が必要だわ」
「近い"力"?」
誠太が首を傾げる。
「力の性質は、みんなそれぞれ違うの。だから、できるだけ近い性質の"力"じゃなきゃ。O型の人間にA型の血を輸血するわけにいかないでしょ」
「じゃあ、圭斗に近い力を持ってるやつを連れてくればいいんだな。誰なんだ?」
「知らないわよ」
きっぱりと、那未は言った。「あたしが知るわけないじゃない」
怒るのも馬鹿らしくなった透夜は頭を抱えた。






後悔しないでもない。どこでも買えるのに、わざわざ大坂から遊びに来た先でハードカバーの小説を買い込むなんて。つい、「せっかくだから・・・」なんて思ってしまう。
杉浦潤は腕時計を見て、ため息をついた。まだ午前だ。誠太の家に行くのは夕方だと言ってある。あまり早く行くのは迷惑だろう。かといって、一人でどう暇を潰したもんか・・・・・・。
視線を巡らせて、少し歩いた所にファミリーレストランを見つける。買ったばかりの本で時間を潰すにはいい場所だ。
歩き出すと、前方から走ってきた男とぶつかった。といっても潤に衝撃はほとんどなく、相手はひっくり返ってしまう。
すみません・・・・・・と、いやに弱々しい口調で、男が詫びる。
「いや、こちらこそ――って、あれ?」
見たことのある顔に、潤の顔はパッと輝いた。


「海兄ちゃん・・・!」






六年前。透は、海を<殺した>。
あの夜、長谷川海は、他人の血に染まった姿で、透の前に現われた。


あんな、夢の話なんか信じていなかった。信じてたまるかと思っていた。だけど、目の前にいるのは紛れもなく、あの日の海が恐れていた長谷川海。
とめてやらなきゃ。信じたくない、目の前に突きつけられたことを理解したくないと思いながら、透は目の前の海を見つめる。
海が動いた。人間のものでは決してない咆哮を上げながら、透に襲い掛かる。透がとっさに持ち上げた手に、その手に握られたカッターナイフに、体当たりするように。




あの後、どうやって家に帰ったのかはよく覚えていない。翌日、海と対峙した場所へ行ってみると、乾いた血がべっとりとこびりついたカッターナイフが落ちていた。海はどこにもいなかった。


そして、事件は止まった。



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05.4.6