たとえ・・・
ごめん、透。 電話の向こうで、海は弱々しく呟いた。迷惑をかけて済まないと。 海は今、潤と一緒にいると言う。そういわれて、潤には海のことを何も話していなかったことを思い出す。 「海――よかった。おれ、おまえのこと殺しちまったんじゃないかって・・・・・・」 良くないよ、ばか。海が、少し怒ったように言った。 『そうしてくれって頼んだつもりだったのに。――ねえ、透。あのときの約束、まだ、生きてるよね・・・・・・?』 「・・・・・・海、」 『お願いだ、透。今度こそ俺を止めて。きっとまたすぐ、俺の自我はなくなる。そうなる前に』 圭斗の強すぎる"力"は、操られた略奪者の意識を呼び戻した。そして海は、略奪者がもう一人いることを告げる。海と同じ時期に行方不明になった、もう一人の存在。 敵は少ないほうがいいだろう? 海が言う。 『すぐに俺を殺して。そして、透夜くんと誠太くんの安全を確保するんだ。今日か明日――近いうちに、あいつは現われる。だから、早く・・・・・・!』 透さん。海お兄ちゃん。 俺が覚えているぐらい、二人は仲が良かった。 だから今、二人が別々にいることが、俺の目にはすごく不自然に映る。 やっと思い出したんだ。俺を襲ったのが誰だったのか。 誠太たちの言ってた、『六年前の事件』。透さんが何か知ってて、でも何も言わなかったっていうのは、海お兄ちゃんのことだったんだ。 どうしてだろう。俺は、これから起こることを知っている。 参ったな。体が動かないよ。 お兄ちゃんたちが危ない・・・・・・。 ふわりと、何かに包まれたような感じがした。次いで、急速に"力"が戻っていく感じ。 (いらないのに・・・・・・) 思いながら圭斗は、全身の感覚が戻ったのを理解した。自分はベッドの中にいる。薬品の匂いがするから、病院だろう。誰かに右手を握られている。少し痛いくらいに、強く。 「圭斗はもう大丈夫だ。目を醒ます前に帰れ」 阿倍の声だ。だが、こんなに冷たい声を聞いたことはなかった。 「ああ――そう、だな・・・・・・」 阿倍と、よく似た声。右手に触れていた体温が離れそうになって、圭斗は反射的に、その手を握った。まだ半分眠ったような頭で、手を離して欲しくないと思った。 「圭斗・・・・・・」 やけに悲しそうな声で、阿倍ではないほうの男が圭斗の名を呼ぶ。手が離れて、その体温は額を撫でた。 いつ目を開けたのか、自分でもわからなかった。気が付くと、視界の中に阿倍と、もう一人の顔があった。 あれ? と思ったが、眠気に負けてすぐに瞼が閉じてしまう。 「――って、寝てる場合じゃない!!」 ハッとして飛び起きる。自分では一瞬だと思っていた眠りはしかし一瞬ではなかったようで、病室にはもう圭斗一人だけだった。 05.4.6 |