たとえ・・・
夜になって。 透が昔よく遊んでいた公園に着くと、ベンチに腰掛けた海の隣で潤が手を振った。事情を何も知らない彼をどうやって追い出そうかと考えながら二人に歩み寄る。 「――久しぶり、透」 海が遠慮するような笑みでいった。 「ああ・・・・・・」 六年前とほとんど変わらない姿の海に、胸が痛む。彼はもう、自分たちとは違う「もの」になってしまったのだろうか。 「潤。・・・悪いけど、二人にさせてくれないか」 「いやや」 「おい――」 「あ、ごめん透。潤くんに、全部話しちゃった・・・・・・」 「はあ!?」 「いや、だって、気が付いたらそういう流れになってて・・・・・・」 「俺に隠し事はできないって、学校では評判やで」 楽しそうに潤が言う。「気にせんといて。話の邪魔はせえへん。なあ、那未」 「あたしはあんたほど聞き分けよくないわよ」 「!!?」 ぎょっとして振り返った透の目の前に、長谷川那未が立っていた。 「・・・一緒に来たんと違うん?」 透の驚きっぷりに、潤が呆れた声を出す。尾けて来たのよ、那未はなんでもないことのように言う。そして。 「ずいぶん探させてくれたじゃない、お兄ちゃん・・・・・・?」 妹の冷たい瞳に射すくめられた海が、思わず「ヒッ」と喉を鳴らす。 「な、那未・・・・・・? どど、どうしてここに・・・・・・」 「探してたからに決まってるでしょう? 勝手にいなくなって、あたしたちがどれだけ心配したと思ってるのよ」 言葉だけは冷静な那未の声が震える。ごめん、と呟いた兄の胸倉を掴んで、俯く。海は妹を抱きしめようとして、しかしその手を引っ込めた。 「那未・・・・・・大きく、なったね――」 「ごまかさないで」 涙声で、それでも毅然と那未は言った。 「全部知ってるんだから。六年前にあったこと。ちゃんと調べたんだから・・・・・・!」 まさか、そんなことを突き止められるようなシロモノだとは思っていなかった。 何でも屋、「ハリィハック」。 かつて圭斗が属していた、そして那未が今も属している組織。 那未は三年も前から、海のしたこと、透のしたことを知っていたという。 それでも今まで何も言わなかったのは、彼女は彼女なりに解決方法を探っていたからだ。ハリィハックで。圭斗には何も知らせていないという。 「海。操られてる、もう一人って言うのは?」 透が訊くと、海は顔を伏せる。 「・・・・・・あの人は、もうだめだ。人間じゃなくなってる。六年前も今回も、あの人は"力"を持った人を殺してしまった・・・」 「! じゃあ、おまえは誰も殺してないんだな!?」 「うん、だけど・・・・・・」 圭斗くんが。気にする海の肩を、透が叩く。 「圭斗は大丈夫だ。あいつは意外と丈夫だから」 しばらくの沈黙の後、海はゆっくりと透を見た。 「ごめん、透。約束を・・・・・・果たしてくれないか」 「・・・・・・ああ」 頷いて、透はカッターナイフを取り出した。どす黒く乾いた血が、今もまだこびりついている。 「行くぞ。見たくないやろ」 潤が那未の腕を引いて、歩き出した。 「待って、」 那未が言った。「他に方法が――」 獣の咆哮のような音が、すぐ近くで聞こえた。 かと思うと、茂みから何かが飛び出し、那未と潤に襲いかかった。 「那未・・・・・・!!」 海が叫んだ。手を伸ばすが、届く距離ではない。潤が那未を抱きかかえ、転がるようにして攻撃を避ける。 元は中年の、普通の人間の男だったのだろう。しかし今は、乾いた泥と血で全身がひどく汚れていた。目が血走り、唇からは糸切り歯が牙のようにはみ出し、ぼたぼたと唾液を垂らしている。両手両足の爪は鋭く、人を引き裂くのに適した形に変形していた。哀れな、操られた男。 透が状況を把握する間もなく、男は再び那未と潤に向かって爪を振り上げた。 「っでりゃあああぁぁぁぁぁ――っっ!!!」 バキッ。 素晴らしい勢いで走ってきた何者かが、男に飛び蹴りをかました。 彼は空中で一回転して華麗に着地を決めた。男がもんどりうって倒れる。 「ぜぇっぜぇ、はぁ・・・・・・那未さん、大丈夫!?」 「・・・・・・あ、あんたは・・・・・・・・・」 ホントにもう。驚きと呆れをない交ぜにしている那未をよそに、彼はブツブツと文句を言っている。 「まったく、アキと稜也はなにやってんだよ、那未さんをほっぽらかして。ほんっと肝心なときに役に立たない――」 「あんたを助ける方法探してんのよ」 「え、俺? なんで?」 「圭斗おおぉぉぉぉぉおおお! 無事やったんやな、なんや良かったー!!」 大声を上げて彼に抱きつく潤に、透がようやく我に返る。顎を外さんばかりに口を開き、 「お、おまえはなにやってんだあああっ!!?」 潤より馬鹿でかい声で怒鳴った。 「え、なにって」 怒鳴られた当の本人はその理由がわからず、キョトンとしていた。 05.4.6 |