たとえ・・・
「グ、ガアァァアァアア――――ッ!!!」 「ってのんびり話してる場合じゃないですね!?」 圭斗はなぜか透に確認して、敵に突っ込んでいった。 「あ、頭痛ェ・・・・・・」 透が頭を抱えると、海が驚いたように、 「珍しいね、透が」 「おい」 「あれ、圭斗くんなの? たいした怪我じゃなかったんだね、良かった・・・・・・」 「・・・・・・」 そんな馬鹿な。透は、男とまともに遣り合っている圭斗を見つめた。 "力"のことを抜きにしても、かなりの重症だったはずだ。あんなにすぐに動けるはずがない。 "力"を持った人間。ただ"力"を持っているだけの、普通の人間。海や透夜、誠太を身近で見ていたから、みんなそうなのだと思っていた。 だけど、違うのか。素手で人を引き裂いた男。意のままに他人を操る「誰か」。異様な速さで回復した、圭斗。 「あああ、圭斗・・・・・・っ」 "力"を持つ者同士のぶつかり合いに、潤が手を出せずにやきもきしている。 思わずにいられない。祈らずにいられない。――圭斗。"力"を持っていても。他の人間と違っていても。今度こそ、ずっとそばにいるから。だからどうか、<化け物>になってくれるな。"力"に呑み込まれてくれるな。"力"に頼る前に、おれに縋りついたらいい。だから―― 不意に、圭斗がこちらを見た。誰かのために戦う男の表情のまま、唇が笑みを形づくる。トン、と軽い動作で男から離れた。 ドン、という低い音は、透のすぐ側で聞こえた。キラキラ光る何かが透の横を通り、一瞬で男に到達する。 「な・・・・・・!?」 見る間に、男が凍りついていく。 それを放ったのは、那未だった。 「なんやそれ!?」 潤の目が彼女の手の中にあるものに釘付けになる。銃の形をした、よくできたオモチャだ。那未はにっこりと微笑んだ。銃のグリップから丸い何かが浮き出て、彼女の手の中に落ちた。 「"力"を持った石よ。普通の人間でも、これの"力"を使うことはできるの。"力"なんて漠然としてるものだから、こんなオモチャを引き金にでもしないとうまくいかないんだけどね」 「そんなものがあったんだ・・・・・・」 海が呆けたように云った。 「石の"力"の場合、用途が限定されるけど。火とか水とか。これは氷。持ってきといてよかったわ」 「急な発熱とかに役立つんですよね、氷」 「これをそんな使いかたすんの、あんただけよ」 戻ってきた圭斗に、笑い交じりで那未が応える。 「それより圭斗、おまえやっぱりケンカ慣れしとるやろ。どこでそんなん覚えたんや!?」 「どこって、地下し――あ、いたた」 圭斗が肩を押さえてしゃがみこむ。 「っちゃー、傷開いちゃった・・・・・・」 「見せろっ!」 潤が慌てて、しかしどこか嬉しそうに、問答無用で圭斗の服を剥ぐ。現われた白い肩の真っ赤な傷口から、じわじわと血が滲み出ていた。 「え、そうだったんですか?」 自分が陥っていた状態を透から聞いた圭斗は、半裸のまま少し顔を引き攣らせた。 「"力"奪られてたんだ・・・・・・」 「で、なんでピンピンしてんだ!?」 「さあ・・・・・・目ェ醒ましたときに誰もいなかったから、なにがどうなってたのか聞けずに出てきたんですけど」 「出てくるな!」 透が声を荒げると、圭斗はビクリと肩を竦めた。 「おまえはもうちょっと自分に気を使え! おれたちがどれだけ心配してると思ってるんだ。おまえはそれで良くても、こっちはたまんねーんだよ!!」 「でもっ・・・・・・ごめんなさい・・・」 圭斗は透の怒気から逃れるように潤の背に隠れ、 「それで、どうするんですか、海お兄ちゃんのこと」 「あー・・・・・・」 言われて思い出した透は、空を仰いだ。夜の闇の中、わずかな星たちが懸命に光って己を主張している。 何かが起こった。 一瞬、辺りが真の暗になる。 月と街灯の光が戻ったとき、海の姿が消えていて。 ――圭斗が、潤の腕の中でクタリと全身の力を失っていた。 05.4.6 |