トラブル





「・・・・・・ついてこないでくれる?」
少年はついに振り返って言った。そこには、下校中通りかかった公園からついてくる子どもがニコニコしていた。
「知らない人についていくなって言われてないの?」
「しってるひとだもん。だからいいの」
「僕はおまえなんか知らない。さっさと帰んな」
「ひとりでどっかいっちゃだめなの」
ムカ。
勝手についてくるのはいいわけ? 大体一方的に知られてるなんて不愉快なんだけど。つーかガキがこの僕に口答えすんな!
「ねー、いっしょにかえろー?」
ぐい、と制服のズボンを掴まれて、
「あーもううるっさいな! 名前は!? 家どこ!」
怒鳴ると、子どもはニパーッと笑って言った。
「なまえはぁ、やまなみけいと!」
「やまな・・・・・・グレイデビル?」
まさか、とは思いつつ、少年は子どもを凝視した。
「僕のこと知ってるって言った?」
「あかちゃん! ・・・・・・あ、えーと、ちがくて、れっどどらごん!」
「・・・・・・・・・へえ、ハリィハックは僕のことそんな風に呼んでるんだ・・・・・・」
「おこんないでー。ね?」
圭斗がレッドドラゴンの手を握る。
「おうちあっちー。いこう!」
相手に構わず歩き出す圭斗。レッドドラゴンは黙ってその後をついていった。

「あれ〜?」
コンビニエンスストアの前で、圭斗は首を傾げた。
「おうち、ないよぅ」
「間違えたんじゃないの」
「まちがってないもん! あっちさがす!」
圭斗は昔家があった場所から離れた。


「かわだー!」
人気のない、細い道に出た。道の横には川があり、川の反対側にも同じような道があった。圭斗が張り切って柵を登りだす。
ふと、圭斗が川に背を向けていたレッドドラゴンの顔を覗き込む。
「あかちゃぁん、おかおあおいよー?」
「・・・・・・うるさい」
「あーそっかー、おみずきらいなんだよねー」
「うるさいっ」
睨みつけられて、圭斗はムッと口を尖らせる。
「ねー、あかちゃんはけいとのこときらいなの?」
レッドドラゴンはギュッと眉根を寄せた。嫌いか、だって? そんなの決まってる――
「嫌いだ、おまえなんか。消えてなくなればいい!」
「・・・・・・いいもん、けいとひとりであそぶ――きゃあああああ!!!」
「えっ」
「くもー! とってとってとってーーーーー!!」
自分の手の甲に蜘蛛を発見してパニックになった圭斗が、レッドドラゴンに体当たりした。
「あ――――」
ぐらりと、バランスを崩した体が、柵を乗り越える。レッドドラゴンは目を見開いて、圭斗の泣き顔を見た。

落ちればいい、おまえなんか。
おまえ一人で。
苦しい水の中に。

くるしい――

「――や・・・っ・・・・・・」

けいと!!



「・・・・・・圭斗。大、丈夫、か?」
ぎゅっと閉じていた目を開けると、圭斗は男の右腕に抱かれていた。
「・・・・・・おとうさん」
山波利之はちょっと困ったように笑った。
圭斗は満面に笑みを浮かべて、父親の首にしがみつき、そのまま眠ってしまった。それを愛しそうに見つめていた山波は、自分の左腕の中で呆然としている少年に視線を移した。
「きみも、大丈夫?」
「・・・・・・・・・え」
「怪我はない? ごめんね、圭斗が迷惑をかけたようで」
「・・・・・・っ!!」
レッドドラゴンは山波の腕を振り払い、自分の足で立った。怯えたような顔で山波を見つめ、すぐに顔を逸らした。そして、何も言わずに走り去っていった。




トップモドルススム
05.10.31
じぶん以外のくるしみ。