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トラブル





「向こうの飛行場についた途端、連絡があったんだ。また圭斗の“力”が奪われたって。それですぐ戻ってきたんだ」
山波は公園で圭斗を探しに行こうとしていた誠太たちと共に、灰の鼻を頼りにあの川が見えるところまでたどり着いた。そこで、いきなり一人走り出し、誠太と透夜が追いつくと、山波の腕の中で圭斗が眠っていた。
「それにしてもよくすぐに圭斗がわかっ・・・・・・りましたね」
と、透夜。
「圭斗が小さくなってたことは知らなかったんでしょう?」
透夜の問いに、山波は「大切な息子だからね」と笑う。
「あの、」
誠太が言い難そうに言った。
「おじさんが圭斗のこと、その、誰かの“力”でああいう風にさせられてるのって、・・・・・・圭斗の“力”が普通より強いせいなんですか?」
「それは――わからないんだ。誰が、どうして・・・・・・それさえわかれば、どんな手を使ってでもやめさせるのに」
暗い笑みを浮かべた山波の顔は、極悪人のようだった。
「・・・・・・そうですか。あ、そういえば、何で圭斗の“力”は普通より大きいんですか? おれと透夜は同じくらいだし、このくらいが普通だって父さんから聞いたんですけど」
「ああ、それは、特に理由とか原因とか、そういうものはないよ。ほら、○○○○だって、人によって大きかったり小さかったりするだろう?」
「・・・・・・はあ」
「他に例え方があるだろうよ」
思わず突っ込みを入れた透夜に、山波はあっけらかんと笑った。
「ごめん、とっさに思いつかなくて、つい」



「・・・・・・なにこれ」
山波がマンションを後にした直後に、圭斗が呻いた。見れば、すっかり元の姿に戻っている。当然、着ていた服はそのままの大きさである。
「うわー・・・・・・早く着替えたほうがいいよ」
「・・・・・・うん」
寝ぼけたまま、圭斗は着替えるべく動き出す。動くたびに、プチプチと糸の切れる音がしていた。

ようやく目が覚めた圭斗に、山波のことは伏せて何があったか説明すると、本人は小さくなっている間のことは何も覚えてなかった。
「ひたすらバカなことをしてた夢は見たけどね。ああ、あと、空も飛んだ」
「飛んだな、そういえば」
「飛んだねえ・・・・・・あの瞬間、おれは圭斗が死ぬと思ったよ」
誠太がしみじみと語る。
「え、そう? そんな身の危険は感じなかったと思うけど」
「そりゃ圭斗笑ってたもんねえ! まったく、人の気も知らないで」
「あーいやー、やっぱさ、迷惑かけた?」
困ったように、へら、と笑う圭斗に、誠太と透夜は怒りの表情を向ける。
「そりゃ迷惑かけられたよ! ほんとにもう、あの瞬間の恐怖を味わわせてやりたい〜!!」
「迷惑ってより、心配だな、かけられたのは。ほら、ちゃっちゃと謝れ」
「うん、ごめん・・・なさい」
素直に頭を下げた圭斗は、「誠太って怒ると彩太に似てる・・・・・・」とこっそりつぶやいた。



誠太と透夜に「どうして圭斗に本当のことを言わないのか」と問われて、山波は「圭斗を傷つけたくないから」だと答えた。
(あの子たちは素直だな・・・・・・)
自分のついた嘘に、まったく気付かなかった。
山波は、自分の親が自分を虐待するのは操られているからだ、ということを知って、圭斗が傷つくはずがないと思っている。事実を知らない圭斗は、自分は親に嫌われていると思っているはずなのだから。
圭斗に事実を言わないのは、誠太や透夜にも圭斗に言わないように頼んだのは、山波自身のためだった。
“力”は絶対ではない。“力”を持たない人間でも、意志の力でそれに抵抗することはできるのだ。“力”を持つ人間ならなおさらだ。
だからこそ、いえない。圭斗を愛しているのに、“力”を跳ね除けられないことを圭斗はどう思うだろう。そう考えると、怖くてたまらない。
「ずっとそうやってグジグジ悩んでいればいい」
何度も、弟に言われる。「圭斗は俺が引き取るから、おまえはいつまでもそうしていろ」と。
一度はその言葉に甘えようとした。弟が自分を嫌っているのは知っているが、圭斗のことは愛してくれるだろう、と。
しかし、駄目だった。できなかった。弟を信じなかったわけではない。それでも、圭斗を手放すことができなかった。いつか、あの“力”を跳ね除けることができて、息子を抱きしめられる日がくるんじゃないか――そう思ってしまう。

そんな日が来るかどうかも、わからないのに。




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05.10.31
戦う相手が見えない戦いに、踏み出すことができない。

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