tender
圭斗たちが「野良のおうち」と呼んでいる、野良動物たちの根城になっている廃ビルで、一匹の雌犬が出産を迎えていた。
ホームルームが終わってた圭斗が大急ぎで駆けつけると、お腹をポンポンに膨らませた仔犬が三匹、毛布の上で身を寄せ合って眠っていた。
「よお、遅かったな」
壁に背を預けて座っていた克魅が声を掛ける。
「あ〜〜〜、間に合わなかった〜」
克魅の隣に腰を下ろすと、仔犬たちの側にいた母犬が顔を上げた。
「おまえがんばったねー・・・・・・――――っ!!」
声にならない悲鳴を上げて、圭斗が克魅の腕にしがみついた。
母犬の顔――口の周りが血に濡れていた。
「な・・・・・・なんで・・・・・・!?」
「死産だったんだ」
「だからってなんで・・・・・・!」
どうして赤ちゃん食べてるの、という言葉は出なかった。
「やめとけ。下手に手を出すと噛まれるぞ」
死んだ仔犬を母犬から取り上げようとした圭斗を、克魅が止める。
「でも!」
「あれでいいんだ。野生で死んだ子どもそのままにしておいて、自分たちを捕食する『敵』に見つかったら、近くにもっと活きのいい餌があると知らせることになるだろ」
「・・・・・・そう、かもしれないけど、」
かわいそうだよ、と呟いた圭斗に、克魅はため息をつく。
「そうか? ああやって母親のナカに還って、兄弟の糧になるんだ。燃やされて埋められるより、よっぽど幸せだと思わないか」
「・・・・・・・・・うん・・・・・・」
「見たくないなら見なきゃいい。かわいそうだと思うなら栄養価の高い餌でも差し入れてやれ」
抱えた膝に顔を埋める圭斗の頭に、ポンと手を乗せて立ち上がる。
「俺はもう帰るぞ。おまえが来るまでって約束だったからな」
「・・・・・・ありがと」
圭斗がくぐもった声で返事をすると、ゆっくりと足音が遠ざかっていった。
しばらくして起きだした仔犬たちが母犬におっぱいをせがみ始めた頃、コンビニで買った暖かい食料を携えて、克魅が戻ってきた。
06.2.23
アルファベットで26のお題「tender(やわらかい、か弱い、触ると痛い、やさしい)」
どうすることが絶対に正しい、なんていえないけれど。戻る