真犯人

「ち、ちょっと、ウソでしょ!?」
透たちの様子を窓から見ていたのり子が叫びながら立ち上がった。「どうして地面が……」
緑山が青ざめた。
「あ、あそこ崖です! 雪が積もってたからわからなかったんじゃ……」
「そういうことは最初に言っといてよ!」
しのぶが飛び出していこうとした。
しかし部屋の入り口に、大橋が立ち塞がっていた。
「悪いな――動くなよ」
彼の手にはボーガンが握られている。
「……どういうこと?」
「どういうもなにも」
しのぶの問に、大橋は唇を歪ませた。笑ったつもりなのかもしれない。
「知られる、わけにはいかなかったんだ。なのに――わかっちまったんだろ、あの刑事。せっかくいい具合に、誰かがおれとは別にアノヤローを狙ってくれたってのによ」
「つまりあんたが、内島さんを殺したの?」
「ああ、そうさ。――ばれちまったからな。仕方ねえよな」
大橋はボーガンの先をしのぶの胸に押し付けた。
「仕方ない? なにがよ。わたしを殺すのが? ここにいる人みんなを殺すのが? どうして仕方ないのよ!?」
「……そうすれば、捕まらないですむ。おれは、」
「捕まるのがいやなの? だったら最初からこんなこと――」
「捕まるのがいやなんじゃない! だけど、捕まったら、言わなきゃいけない。おれがあいつに、された、こと、を――」
大橋の頬を、涙が濡らした。彼はそれを無造作に拭うと、緑山にロープを持ってくるように言った。緑山が言われた通りにすると、今度はのり子に、
「それでこの女とオーナーを縛れ。終わったらこっちへ来るんだ」
のり子は二人を縛った後、涙目でのろのろと大橋のほうへ足を向けた。大橋が、彼女にボーガンの狙いをつける。
「ちょっとぉ、やめてよ……」
大橋が引き金を引こうとしたまさにその時、来客を知らせるチャイムが鳴った。
「ふん……」
大橋は鼻を鳴らした。誰も出なければ、すぐに帰るだろう。
が、パタパタと足音がして、玄関が開かれた。訪ねてきた何者かとドアを開けた何者かが二言三言言葉を交わし、談話室に足音が向かってくる。大橋はボーガンを部屋の入り口に向けた。侵入者が姿を現した瞬間に撃ち殺すつもりなのだ。
「すいません、隣の濱野の使いの者ですが――」
バシュッと、矢が放たれた。
矢は彼の腕をかすって廊下の壁に突き刺さった。
「……ぃてーな。テメェ、何のつもりだ……」
地の底から響いてくるような声で唸った彼は、190cmを超える長身から大橋を見下ろした。
「ひ……」
それだけで大橋は威圧され、立ち竦んだ。
彼の冷たい眼から逃れるようにして、大橋はボーガンを構え直し、引き金に指をかけた。
その刹那、彼の動かした左腕が大橋を吹っ飛ばした。
「がはっ……!?」
壁に叩きつけられた大橋は床に崩れ落ち、そのまま失神してしまった。
「――すいません、食料を分けていただけませんか。もちろん金は払います」
「かつみぃ、圭斗は!?」
灰が彼の傷口を摑み、拳骨を落とされた。





落ちていきながら、透は圭斗を包み込むように抱きかかえた。
10mほども落ちて無事でいられたのは――無傷とはいえないが――分厚く降り積もった雪のおかげだろう。
「いてっ……」
右肩に激痛が走った。見ると、なんと矢が突き刺さっていた。これが刺さった衝撃で落ちたのだ。気を失っている圭斗の頭を膝に乗せ、矢を抜こうと左手を回したが、真っ直ぐに引っ張れない。
「いっいててててて……圭斗、おいっ」
「ん……」
圭斗は目を開けると不意打ちでにっこりと笑い、透の膝をポンポンと叩いて再び目を閉じた。
――「おとなしく寝てろ」?
「寝惚けるな圭斗! そんな場合じゃないんだ。痛いんだぁ!」
「……ふ?」
圭斗はようやく起き上がった。
「透さん! ……落ち武者みたい」
「いいから早く抜いてくれ」
あ、はい、と返事をして、圭斗は透の肩に触れた。
「でも、抜いちゃって大丈夫なんですか? 余計血が出ちゃうんじゃ……」
「う、そうか……でもやだな。肩からこんなの生やしてんの」
幸い、血はあまり出ていないし、腕を動かさなければ痛みも我慢できないほどではない。透は矢を抜くのをあきらめて立ち上がると、くしゃみをしている圭斗を促した。
「戻るぞ。いけるか?」
「透さんこそ大丈夫なんですか? 俺の肩に摑まってください」
「圭斗……」
圭斗の心遣いはありがたいのだが、その言葉に甘えるとなると、
(潰れそうだな)
と、失礼だが思ってしまう。
「いいよ、全然歩けるし。圭斗が疲れちゃうだろ」
透が言うと、圭斗は不満そうな表情で立ち上がった。そのとき彼はぎゅっと眉をひそ顰めたが、透は気づかなかった。
五分も歩くと、透は不安になってきた。――こっちであっているのか?
(まずいな)
体力に自信のある自分はともかく(自分が怪我人なのを忘れている)、圭斗が目に見えて弱ってきている。このまま当てもなく歩き続けていいのだろうか?

花屋のにーさんの孤独な闘い

矢は、彼の腕をかすって背後の壁に突き刺さった。
「……ぃてーな。テメェ、何のつもりだ……」
彼の不機嫌さのメーターはとっくの昔に針が振り切れている。
「ひ……」
彼に睨まれた男は、威圧されながらも手にしたボーガンをこちらに向けてきた。
いい度胸だ……
くわっ。彼は笑った。左手に、普段より大目の“力”をこめ、目の前の男に叩きつけた。
「がはっ……!?」
壁に叩きつけられた男は床に崩れ落ち、そのまま失神してしまった。
まったく、この俺を誰だと思っているのだ。まあ、知らないだろうが。一般人は知らないほうが幸せだ。
「――すいません、食料を分けていただけませんか。もちろん金は払います」
縛られているこのペンションの主人に頭を下げる。
「かつみぃ、圭斗は!?」
玄関を開けた子供に傷口を摑まれ、彼はその頭に拳骨を落とした。
その後無事に食料を入手した彼は、主人が止めるのも聞かず、濱野夫妻の待つ別荘に帰っていった。
途中、少し回り道をした。ペンションで、客が二人外に出て行方不明になってしまったと聞かされたからだ。
そして、山小屋を見つけた。
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